取組の見所である「決まり手」。大相撲には現在これだけの技が存在します。
この記事では、全82手ある決まり手のうちのひとつ、「上手出し投げ(うわてだしなげ)」について解説していきます。
大きく6種類に分けられる決まり手のうち、上手出し投げは「投げ手(なげて)」に属します。
力任せに投げるのではなく、相手の力を巧みに利用して体勢を崩す、非常にテクニカルでスピード感あふれる決まり手です。
この記事の目次
上手出し投げとはどんな技?
上手出し投げは、四つに組んだ体勢から、まわしを引いた「上手」の方のヒジで相手の差し手(下から入れている腕)を極め(殺し)、自分が体を開きながら、相手を引きずるように前方に投げ倒す技です。
右上手を引いていれば、右ヒジを脇に締めて相手の左腕をロックし、相手が前に出てこようとするタイミングに合わせて体を左へ開いて投げ落とします。
決まり手出現頻度
(ランクB)
「上手投げ」との違いは?
名前がよく似ている「上手投げ」ですが、投げの性質と方向が大きく異なります。
- 上手投げ:相手を抱え込み、自分の腰に乗せたり密着させたりしながら、横あるいは後ろ方向へ「豪快に」投げる技。怪力の持ち主にとっては格好の武器となります。
- 上手出し投げ:相手と少し間合いを取り、体を開いて相手のつっかえ棒を外すように、前方(自分の足元や斜め下)へ「引き落とすように」投げる技。
上手投げが筋力を要する「剛」の投げだとすれば、上手出し投げは「柔」の投げと言えるでしょう。相手の重心が前にかかった瞬間を狙うため、力任せではなく、タイミングをつかむ呼吸などかなり高度な相撲センスが要求されます。そのため、小兵力士でも大型力士を土俵に這わせることができるのが最大の魅力です。
※同じ出し投げでも、下手(内側の腕)から仕掛ける「下手出し投げ」については別記事で解説しています。
上手出し投げを極めるコツ
上手出し投げを鮮やかに決めるには、独特の腕の使い方とタイミングが要求されます。
演歌歌手の「コブシ」のように
上手出し投げの腕の使い方は、しばしば「演歌歌手がコブシを握る動作」に例えられます。
まわしを引いた手を、小指の方向へキュッとひねりながら、斜め下に向かって相手の体を引き落とすようにすると、相手は抗うことができずにバランスを崩します。
「アゴ」が勝敗を左右する
もう一つの重要なポイントが「アゴ」の使い方です。
投げる際、単に腕を引くだけでなく、自分のアゴで相手の肩口を押さえつけるようにして体を引きます。これにより相手の重心が確実に浮き上がり前傾するため、投げがより強烈に決まるのです。
マラソンランナーでもアゴが上がるとバテた証拠と言われるように、相撲でもアゴが上がってしまった力士に勝機はありません。アゴをうまく使って相手の体勢を崩すことが、出し投げの極意です。
歴史とドラマを生んだ上手出し投げ
上手出し投げには、大相撲の歴史を彩る興味深いエピソードが数多く残されています。
かつては「出し投げ」という一つの技だった
もともと大相撲の決まり手には「出し投げ」という一つしかありませんでした。しかし、昭和35年(1960年)に決まり手が70手に制定された際、上手から打つか下手から打つかで明確に区別され、「上手出し投げ」と「下手出し投げ」の2つに分けられました。
最高視聴率65.3%!日本中が熱狂した一番
上手出し投げが最も日本中を熱狂させた瞬間といえば、昭和56年(1981年)初場所の千秋楽です。
大関昇進を懸けた関脇・千代の富士が、圧倒的な強さを誇っていた横綱・北の湖と優勝決定戦で激突。激しい攻防の末、千代の富士が北の湖を鮮やかな上手出し投げで破り、涙の初優勝を飾りました。
日本中に「ウルフフィーバー」を巻き起こしたこの一番。勝負が決まった瞬間に記録した「視聴率65.3%」は、現在に至るまで大相撲中継史上最高の数字として燦然と輝いています。
上手出し投げの主な使い手
上手出し投げは、特に春日野部屋(初代若乃花の最大のライバルであった横綱・栃錦が率いた部屋)の力士たちが得意とし、「お家芸」とも呼ばれていました。
- 栃錦(第44代横綱):出し投げの天才と謳われた名横綱。左四つがっぷりで相手に上手を引かれてもあわてず、下からのおっつけで先制して下半身をぐらつかせ、そこからすかさず上手出し投げを打つという、ひねりと投げの見事な連続攻撃で一時代を築きました。
- 栃ノ海(第49代横綱)・初代 栃東(関脇):ともに栃錦の弟子であり、師匠譲りのスピード感あふれる出し投げを武器に活躍しました。
- 三重ノ海(第57代横綱):強靭な足腰から繰り出す、重みと鋭さを兼ね備えた出し投げを得意としました。
令和8年5月場所「上手出し投げ」各段勝利数
令和8年5月場所で、決まり手「上手出し投げ」で勝利した力士を各段ごとにリストアップしました。上手出し投げでの勝利数と番付順になっています。同一成績多数の場合もありますので、上位20名とさせていただきました。
幕内の決まり手「上手出し投げ」で勝った力士
十両の決まり手「上手出し投げ」で勝った力士
幕下の決まり手「上手出し投げ」で勝った力士
三段目の決まり手「上手出し投げ」で勝った力士
| 勝利数 | 四股名 | 番付 | 部屋 | 出身地 |
|---|---|---|---|---|
| 1回 | 旭富士 | 東三段目6 | 伊勢ヶ濱部屋 | モンゴル |
| 1回 | 清の花 | 西三段目27 | 出羽海部屋 | 福島県 |
| 1回 | 豪乃若 | 西三段目40 | 武隈部屋 | 埼玉県 |
| 1回 | 隆勝生 | 東三段目49 | 湊川部屋 | 愛知県 |
序二段の決まり手「上手出し投げ」で勝った力士
| 勝利数 | 四股名 | 番付 | 部屋 | 出身地 |
|---|---|---|---|---|
| 1回 | 豪正龍 | 西序二段6 | 武隈部屋 | 青森県 |
| 1回 | 北勝栄 | 西序二段23 | 八角部屋 | 北海道 |
| 1回 | 飛騨野 | 東序二段34 | 荒汐部屋 | 富山県 |
| 1回 | 下釜 | 西序二段70 | 境川部屋 | 長崎県 |
序ノ口の決まり手「上手出し投げ」で勝った力士
令和8年5月場所「上手出し投げ各段敗北数
令和8年5月場所で、決まり手「上手出し投げ」で敗れた力士を各段ごとにリストアップしました。上手出し投げでの敗北数と番付順になっています。同一成績多数の場合もありますので、上位20名とさせていただきました。
幕内の決まり手「上手出し投げ」で敗れた力士
十両の決まり手「上手出し投げ」で敗れた力士
幕下の決まり手「上手出し投げ」で敗れた力士
三段目の決まり手「上手出し投げ」で敗れた力士
| 敗北数 | 四股名 | 番付 | 部屋 | 出身地 |
|---|---|---|---|---|
| 1回 | 日向龍 | 西三段目7 | 武蔵川部屋 | 宮崎県 |
| 1回 | 千代大和 | 西三段目28 | 九重部屋 | 愛知県 |
| 1回 | 寒風山 | 東三段目40 | 中村部屋 | 秋田県 |
| 1回 | 羅漢児 | 西三段目49 | 二所ノ関部屋 | 大分県 |
序二段の決まり手「上手出し投げ」で敗れた力士
| 敗北数 | 四股名 | 番付 | 部屋 | 出身地 |
|---|---|---|---|---|
| 1回 | 大典翔 | 西序二段7 | 追手風部屋 | 愛知県 |
| 1回 | 魁白猩 | 西序二段24 | 浅香山部屋 | 東京都 |
| 1回 | 房州山 | 西序二段33 | 境川部屋 | 千葉県 |
| 1回 | 風桜輝 | 東序二段71 | 押尾川部屋 | 秋田県 |
序ノ口の決まり手「上手出し投げ」で敗れた力士