大相撲中継やニュースなどで、引退した力士が土俵の真ん中に座り、髷(まげ)にハサミを入れられている感動的なシーンを見たことはありませんか?
今回は、力士生活の終わりを告げる儀式「断髪式(だんぱつしき)」について、国技館の土俵で行える条件や、最後に師匠が入れる「止めばさみ」の作法、歴史的な変遷を解説します。
断髪式(だんぱつしき)とは
大相撲における「断髪式」とは、現役を引退した力士が、相撲界の象徴である髷(まげ)を切り落とす儀式のことです。
通常、断髪式では引退する力士が紋付袴(もんつきはかま)の正装で土俵中央のイスに座ります。そして、これまでお世話になった後援者、同期生、他の力士たち、肉親などが次々と髷に少しずつハサミを入れていきます。
現役引退を象徴する「止めばさみ」
多くの参会者が順番にハサミを入れた後、最後に力士の育ての親である部屋の師匠がハサミを入れることを「止めばさみ(とめばさみ)」と呼びます。
この止めばさみによって、師匠が力士の大たぶさ(髷の結び目)を完全に切り離すことで力士の現役引退が象徴的に示され、儀式は感動的な幕を閉じます。
切り落とされた髷の行方
切り落とされた大銀杏は、力士の魂が宿ったものとして、ガラスケースなどに入れられて引退力士本人が記念品として大切に手元で保管するのが一般的です。名力士のものになると、相撲博物館等で展示されることもあります。
師匠以外が「止めばさみ」を入れる特例
止めばさみは引退時の師匠が入れるのが大原則ですが、何らかの理由で師匠が務められない場合、別の年寄が代理を務めるケースがあります。
たとえば、引退から断髪式が開催されるまでの間に師匠が停年(定年)退職などで相撲協会を去り師弟関係が消滅した場合、当代の師匠ではなく、育ての親である「元師匠」が個人名義でハサミを入れることがあります。また近年では、師匠の不祥事等による部屋の閉鎖や移籍に伴い、移籍先の新しい師匠が止めばさみを入れるなど、複雑な事情を反映した断髪式も行われています。
なお、大銀杏(おおいちょう)を結うことができるのは十両以上の関取だけですが、断髪式の際には特例として、関取経験のない幕下以下の力士であっても大銀杏を結うことが許されています。
国技館の土俵で断髪式を行える条件
テレビでよく見る華やかな断髪式は東京・両国国技館で行われていますが、実は誰でも国技館の土俵を使えるわけではなく、明確な条件が定められています。
平成11年(1999年)9月の理事会において、「十枚目(十両)を1場所以上つとめた力士(元関取)」であれば、引退に際して国技館の土俵上で断髪式を行えることが決められました。
土俵以外で行う断髪式と「女性の参加」
上記の条件を満たさなかった力士(主に関取在位歴のない幕下以下の力士)は、国技館の大広間やホテルを借りたり、部屋の千秋楽打ち上げパーティーのプログラムに組み込んだりして、引退相撲を伴わない断髪式を行うのが一般的です。
実は、このように「土俵以外」で断髪式を行うことには大きなメリットがあります。相撲の土俵は伝統的に「女人禁制」であるため、国技館の土俵上での断髪式には女性は参加できません。しかし、土俵以外の広間やホテルで行う場合は、これまで力士を支え続けてきた母親や奥様など、女性も参加してハサミを入れることができるのです。
国技館の土俵上での断髪式は「双葉山」から
現在では国技館の土俵上で断髪式を行うのが一般的ですが、戦前までは「断髪式は相撲部屋でひっそりと行うもの」という習慣がありました。
初めて国技館の「土俵上」で公開の断髪式を行ったのは、昭和21年(1946年)11月に引退した第35代横綱・双葉山(ふたばやま)であったと言われています。これ以降、時代とともにファンに見守られながら土俵上で髷を落とす現在の形へと定着していきました。
多様化する断髪式の形
近年では、力士の想いやファンへの配慮から、様々な形式で断髪式が行われるケースも増えています。
たとえば、元大関・把瑠都(ばると)は、引退相撲という興行にすると観戦チケットが高額になってしまうため、関取衆の取組などを省略した「公開形式の断髪式」を行いました。また、元幕内・常の山は「ここが私の原点である」との思いから、あえて華やかな場所ではなく、出羽海部屋の稽古土俵で断髪式を行っています。
※なお、関取を30場所以上務めた力士は、断髪式に合わせて「引退相撲」という大規模な興行を開催することができます。莫大なお金が動く引退相撲の裏事情については、以下のコラムで詳しく解説しています。
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