大相撲中継を見ていると、土俵のすぐ下で熱戦を見守る観客たちの姿が映ります。座布団が敷かれただけの土俵に最も近いその席には、和装の方や、どこか威厳のある常連客が座っていることが多いことにお気付きでしょうか。
あの特等席に座っている人々の多くは、日本相撲協会の「維持員(いじいん)」と呼ばれる特別な後援者たちです。
今回は、大相撲という伝統文化を裏から力強く支える「維持員」制度の仕組みや、彼らが座る特別な席、そして一般のファンにはあまり知られていない「維持員会」の強大な権限について詳しく解説します。
この記事の目次
大相撲を支える特別な後援者「維持員」とは
維持員(いじいん)とは、公益財団法人日本相撲協会に対して、大相撲の発展や運営を支えるために多額の寄附(維持費)を納めている個人の後援者のことを指します。
相撲界には古くから「タニマチ」と呼ばれる後援者の文化がありますが、協会として正式に制度化されているのがこの維持員です。所定の審査を経て維持費を納めると、協会から正式な後援者の証である「維持員証(いじいんしょう)」が交付されます。
維持員には大きく分けて、個人や法人が対象となる「普通維持員」、長年の功績が認められた「特別維持員」、そして相撲部屋などを後援する団体が対象となる「団体維持員」の3種類が存在します。
気になる「維持費(寄付金)」の金額と審査
あの憧れの特等席に座るためには、一体どれくらいの費用が必要なのでしょうか。
日本相撲協会の規定によると、維持費は「3年分の一括納入」(分割も可)が原則とされており、3年ごとに継続のための確認審査が行われます。東京で開催される本場所と、地方で開催される本場所とで、納入する維持費の額には違いがあります。
- 東京地区(3年分): 1名あたり 4,050,000円 以上(※1年あたり135万円)
- 地方地区(大阪・名古屋・福岡)(3年分): 1名あたり 1,125,000円 以上(※1年あたり37万5千円)
東京地区の維持員になれば、年3回(1月・5月・9月)の東京場所を観戦できるのに対し、地方地区は年1回(大阪は3月、名古屋は7月、福岡は11月)であるため、年間の場所開催数に応じて金額に差が設けられています。
これらの維持費は相撲協会に対する「寄付金」という扱いになるため、いかなる理由があっても返還されることはありません。
憧れの特等席「維持員席」と「溜り席」の違い
多額の維持費を納めた維持員になる最大のメリットの一つが、土俵に最も近い特等席で本場所を観戦できることです。
維持員には、協会から15日間通しの座席券である「維持員券(いじいんけん)」が用意され、土俵下を取り囲むように設けられた座布団敷きの専用席「維持員席(いじいんせき)」が割り当てられます。
「砂かぶり」と呼ばれる大迫力の席
もともと、土俵周りのすぐ後ろから桝席(ますせき)までのエリアは、総称して「溜り席(たまりせき)」と呼ばれています。力士が土俵から落ちてきたり、取組の激しい砂が飛んできたりすることから、俗に「砂かぶり」とも呼ばれる臨場感あふれる席です。
現在、この溜り席のエリアは大きく2つに分けられて運用されています。
- 維持員席: 維持員専用に割り当てられた席。
- 一般席(溜り席): 一般のファンに向けて販売される席。
つまり、テレビに映る最前列のエリアは、維持員と、プラチナチケットを手に入れた一般ファンが混在して座っている状態になります。
維持員本人が観戦できない場合の「代理人」制度
大相撲中継を毎日見ていると、「いつも同じ維持員席に、今日は違う人が座っているな」と気づくことがあるかもしれません。
実は、維持員本人がどうしても相撲観戦(立ち合い)に行けない場合、維持員本人の責任により指名された「代理人」のみ観戦することが認められています。指名がない場合は席に座ることはできません。
なお、維持員券の販売や転売は固く禁止されています。もし転売が発覚した場合は、当該維持員券の利用停止や退会処分という厳しいペナルティが科されます。この責任は、維持員本人はもちろん、チケットを渡した先の代理人が転売を行った場合でも、すべて「維持員本人の責任」として扱われます。
厳格な「維持員としてのマナー」
土俵に極めて近い特等席であるため、維持員席での観戦には日本相撲協会が定める厳格なマナー(ルール)が設けられています。特等席に座るにふさわしい、品格ある態度が求められます。
- 弓取り式終了まで着席する(途中で帰らない)
- 力士や審判に触れない
- 携帯電話を利用しない(写真や動画撮影なども含む)
- 声援や勝負判定に対しての批判はしない(静かに観戦する)
- 取組中の席の移動は控える
- タオルを掲げるなどの応援行為は控える
単なる観客ではない「維持員会」の強大な権限
維持員に与えられた特権は、特等席での観戦だけにとどまりません。むしろ、ここからが相撲界の奥深いところです。
維持員証の交付を受けた維持員は、所属する地区ごとに組織された「維持員会(溜り会)」に所属することになります。
この維持員会は、日本相撲協会が定める「維持員会規定」によって、その役割や権限が明確に規定された公式な組織です。彼らは単にお金を払って相撲を楽しむだけの観客ではなく、大相撲の運営に直接的に関わる様々な活動を行っています。
① 力士志望者の紹介と協会の運営への提言
維持員会は、将来有望な若者を見つけて相撲部屋へ紹介(スカウトの橋渡し)をしたり、協会の運営に関して意見や提言を行ったりする役割を担っています。地方の有力者などが維持員となっているケースが多く、各地域と大相撲を結ぶ重要なパイプ役を果たしています。
② 三賞選考委員会への出席
さらに驚くべき権限として、本場所の千秋楽に行われる「三賞選考委員会」への出席が挙げられます。
殊勲賞・敢闘賞・技能賞の三賞は、相撲を報じる報道陣(記者クラブ)や審判部の親方衆の投票によって決まりますが、実はこの選考委員会には維持員会の代表者(委員)も出席し、三賞の選定に直接関わっているのです。
外部の後援者が、力士の評価に直結する賞の選定に携わることができるというのは、他の競技ではなかなか見られない大相撲特有の文化と言えるでしょう。
「維持員」のまとめ
土俵下の「砂かぶり」で静かに熱戦を見守る維持員たちは、多額の維持費を納めて相撲協会を金銭的に支えるだけでなく、「溜り会」として新弟子の紹介や三賞の選考にも関わるなど、大相撲という文化の根幹を裏から力強く支えています。
華やかな土俵上の取組の裏には、こうした古くからの強固な後援会システムが機能しているのです。
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