十両に昇進したら何が変わる?関取と幕下以下の違いを解説

場所後3日以内に行われる番付編成会議で決めた番付は、翌場所初日の13日前、つまり1ヶ月ほどは極秘扱いですが例外が2つあります。ひとつは使者によって横綱・大関への昇進が告げられる場合。ふたつめは幕下から十両への昇進が決まった場合です。

このふたつの場合は、番付編成会議の当日に公表されることになるんです。

十両への昇進が決まると力士の周囲は急に慌ただしくなります。化粧まわしや新しい締込、そして明け荷を準備して等々…、このようにいろんな準備が必要なため会議後の当日に公表されるんですね。

幕下から十両への昇進は、序二段や三段目からの昇進とは別次元の変化が起きる相撲の世界。今回は、力士は十両昇進によって何が変わるのか?をご紹介していきます。

十両と幕下では待遇が天と地の差

まずは本題に入る前にひとつだけ。一般的に「十両(じゅうりょう)」と呼んでいますが、本来は「十枚目(じゅうまいめ)」が正式な呼称です。

江戸の頃には十枚目(十両)の地位はなかったのですが、幕末から明治初期の頃になると、幕下の上位10枚目までの力士に対して特別な給金が出るようになりました。その金額が「10両」で待遇も関取と同様になり、やがて明治の中頃には十枚目(十両)という地位が成立したようです。

この十両の給金が、地位としての十両の語源ではないかと言われています。と言うことで正式には十枚目なのですが、この記事では世間的に浸透している十両を用いて説明していきたいと思います。

お相撲さんは十両以上?

力士のことを「〇ノ山関(ぜき)」と呼ぶ表現は聞いたことはありませんか?いかにもお相撲さんという感じがする呼び方ですよね。実はこの呼び方はすべての力士には使えず「関取(せきとり)」と呼ばれる力士に対してのみ使える言葉なのです。

この関取とは十両以上の力士のことを指し、その関取の四股名につける敬称が「関」なのです。

それでは関取ではない幕下以下の力士の四股名はどうやって呼ぶのか?これは「△乃海さん」のように「さん」が敬称になります。いかにもお相撲さんという見た目なのに何だか不思議な感じがしちゃいますね!

幕下以下は力士養成員

一般の人からすれば幕下以下の力士も十分に「お相撲さん」という感じですが、相撲協会での幕下以下力士の正式な呼称は「力士養成員」と言い、まだ養成段階との位置づけになっているんです。

関取になってはじめて一人前と認められる相撲の世界。十両と幕下以下では待遇面で大きく違いがあります。

十両以上でやっと月給が貰える

幕下以下の力士は月給がもらえません。なんと十両以上の関取になってやっと月給が貰えるようになるんです。

ただ、幕下以下も無給というわけではなく、場所ごとの手当と奨励金は支給されています。幕下で説明すると、手当は場所ごとに16万5千円となっています。これに勝ち星と勝ち越しの星の数で計算する奨励金が(仮に全勝で)5万9500円、つまり最大で22万4500円が支給されることになります。あくまで全勝したらですが。

約23万円と聞くと多いと思う方もいるかもしれませんが、この支給は「本場所ごと」なので年6場所のみ。つまり年額135万円ほどしか貰えないんです。しかも、この例で示したのはあくまでも全勝した場合の計算なので、実際はもっと少ないしそれ以前に年6回全勝してたら幕下からもう上がっていますね(笑)

では、その十両になったらいくら貰えるのかというと月給で110万円だそうです!さらに月給だけではなく賞与や手当、補助費などを入れると年収で1700万円以上になります。しかもこれだけではありません。本場所ごとに「力士報奨金」と呼ばれる月給制の給与とは別の給金が支払われるので実際の年収はもっと高くなります。

どうでしょう?幕下以下と十両では収入が桁違いになりますね。関取になってはじめて故郷に錦を飾れるようになるんです。

ちなみに…これらの支給は各部屋からではなく相撲協会からの支給になります。親方も力士も裏方もすべて相撲協会所属で、各相撲部屋は協会から力士を委託され、指導と養成を委託されています。このような形態になっているため、相撲協会から給料を貰うんですね。

大部屋から個室へ、そして付け人がつく

基本的に幕下以下の力士たちは相撲部屋の部屋住みです。他の力士たちと大部屋で寝食を共にして日夜稽古に励むのですが、晴れて関取になると個室になり自由に外食することもできます。

また関取には「付け人(つけびと)」という身の回り世話をしてくれる力士がつきます。基本的に同じ部屋の力士がつとめますが、人数が足りない時は同じ一門の他の部屋の力士がつく場合も。テレビ中継でたまに映る花道の奥で関取と一緒にいる浴衣姿の力士は付け人ですね。

場所中の付け人は、お水を渡して柔軟の手伝い、そして場所布団(土俵脇で関取が座る座布団)を運んだりしていますが、場所以外でも普段の洗濯や入浴に給仕にお使いなど、あらゆることをこなします。このような付け人が十両で2~3人、幕内で3~4人、横綱にもなると10人近くもつくのです!

服装にも変化が

十両になると羽織袴の着用が許されます。また、幕下の時はエナメル雪駄と黒足袋でしたが、十両になると畳敷の雪駄に白足袋を履くことが許されます。場所入りの際には服装にも注目してみましょう。

明け荷が贈られる

関取になると「明け荷(あけに)」の使用が許されます。明け荷とは力士の締込や化粧まわしなどを入れる竹で編まれた葛篭(つづら)で、箱の表面に和紙を貼って渋と漆で固められ、正面と背面には四股名が大きく書かれます。

この明け荷は十両昇進のお祝いとして後援会、または同期生から贈られることが多く、その明け荷の側面には贈り主が書かれているそうです。

明け荷に詰めるものはどれも関取になって許されるものばかり。場所の初日までには付け人が仕度部屋に運び込み、千秋楽まで置かれることになります。また地方場所や巡業も明け荷は関取と一緒に旅をします。

十両になると土俵姿が変わる

待遇の次は力士の土俵上での変化を紹介していきます。相撲観戦としてはいちばん目につくことなので、幕下と十両の違いを整理しましょう。

大銀杏を結って土俵を務める

十両になると関取の証「大銀杏(おおいちょう)」を結うことが許されます。幕下以下は元結で縛ったまげを前に寝かせただけの、いわゆる「ちょんまげ」で土俵に上がりますが、十両以上の関取になると大銀杏で土俵を務めることになります。

大銀杏は熟練した床山が20~30分かけて結う一種の芸術品で、力士の髪質や好みに合わせてカスタマイズされる言わば一点もの!その力士ごとの違いも観戦の楽しみですよね。力士になったからにはいつかは大銀杏で土俵に上がりたい!そんな想いで入門するのではないでしょうか。

そんな大銀杏ですが、幕下以下でも結ってもらえる時があります。それは幕下上位が十両の力士と対戦するときです。この時は十両の土俵に上がるのと、上位力士に対する敬意から大銀杏に結うのがしきたりとなっています。

また、弓取り式や初っ切りを務める力士も大銀杏を結ってもらえます。今は序二段の聡ノ富士が大銀杏姿で弓取り式を務めていますね。

締込が変わる

幕下以下は普段の稽古で使っている黒か紺色の「稽古まわし」で土俵に上がりますが、関取になると艶のある博多織の「締込(しめこみ)」を許されます。稽古まわしとは違い色も多彩で、各力士の個性が見た目に楽しいです。

また、締込の間に挟んで垂らす下がりも変わり、幕下以下のブラブラした木綿のひもから、締込と同じ博多織を布糊(ふのり)で固めた棒状の下がりになります。

ビシッとした見た目でカッコいいですが、十両に上がったばかりの力士が下がりを捌くのに苦労する姿も初々しくて注目ポイントです。

ちなみに関取になると稽古まわしも変わります。幕下以下の黒ではなく、関取は白い稽古まわしを許されます。相撲部屋の稽古見学や巡業の稽古の際にはぜひ注目して見てくださいね。

化粧まわしで土俵入り

十両には十両土俵入りがあるため、化粧まわしが許されます。華やかなものやお国柄が現れているもの、はたまた面白い図案のものまで化粧まわしを見るのも楽しいですが、これは力士の昇進の祝いに後援会や出身校から贈られることが多いようです。

この化粧まわしは関取になった証とも言えるとても大切なものですが、関取は力士全体の約10%にしかすぎず、残りの90%の力士は化粧まわしをまくことなく現役を終えるのです。

関取以外も化粧まわしをまける?

ただし、前相撲を取り終えて序ノ口からデビューする新弟子は、新序出世披露の時に兄弟子たちや師匠の化粧まわしを借りて土俵でお披露目されます。

大きな希望を胸いっぱいに膨らませて、次は自分の力で化粧まわしをまくんだと、稽古の日々が始まるのです。

【解説】新序出披露とはなにか?

また、大銀杏の時と同じように弓取り式の力士も化粧まわしを締めて土俵にあがります。

土俵上での所作の変化

十両からは土俵での所作も変化します。相撲と言えば塩をまくイメージがありますが、この塩まきは十両以上の関取だけが行います(取組の進行具合で幕下上位の力士がまくこともある)。

また、取り組み前に力水をつけてもらえるのも十両からです。この水は清めの意味があり、力士は口をすすいで身を清め土俵をつとめるのです。

取組の制限時間は幕下以下の2分から3分へと延びて、仕切りの回数が増えます。この仕切りを繰り替えして集中力を高めていく様子を見ると、がぜん大相撲らしさが増してきますよね!

相撲はいつ立ち合うの?制限時間と時間調整の方法

取組は1場所7番から15番になる

これは「土俵姿」ではないですが、土俵上の変化としては一番大きいのではないでしょうか。幕下以下は本場所15日間で7番勝負ですが、十両以上の関取は15番勝負となります。

相撲の取組は数秒で終わるものがほとんどですが、その数秒のためにずっと神経を尖らせているのが力士たちです。体力的にも精神的にもきつい取組数の増加に果たして耐えられるのか?これを問われるのが新十両なんですね。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ポイントをまとめます。

十両昇進による変化
  • 十両になると月給が貰えるようになる
  • 個室がもらえ付け人もつく
  • 明け荷を使えて羽織袴も着れる
  • 大銀杏を結って土俵をつとめる
  • 塩をまき、力水をつけてもらえる
  • 制限時間が3分になり仕切りの回数が増える
  • 取組が7番から15番と連日の取組になる

幕内で活躍する力士たちも、一番嬉しかったことは十両に上がった時だと話すことが多い十両昇進。本場所が終わったあとの番付編成会議で誰が十両に昇進するのか?予想してみるのも楽しいですね。

⇒ 【解説】番付の仕組みと決め方
⇒ 力士の給料はどれぐらい?収入を詳細解説

4 thoughts on “十両に昇進したら何が変わる?関取と幕下以下の違いを解説

  1. 平成生まれの昭和好き

    こんにちは、初めまして。
    給料が103万6000円と表記してありましたが、現在はおよそ10%アップして110万円です。因みに幕下以下の力士も10%アップです。幕下が15万円から16万5000円、三段目が10万円から11万円、序二段が8万円から8万8000円、序ノ口が7万円から7万7000円です。2年ほど前からこのような体制だそうです。
    長々と失礼いたしました。

    返信
    1. レイ 投稿作成者

      平成生まれの昭和好き様、コメントを頂きましてありがとうございます。

      ご指摘頂いた給料アップの件、大変申し訳ございませんでした。
      他の記事は書き換えていたのですが、こちらは修正が漏れていました。

      ご指摘のお陰で修正することが出来ました。
      ありがとうございました。
      今後ともよろしくお願いいたします。

      返信
  2. ビッグダディ

    さがりが、ふにゃふにゃのと、固いのがあるのは何故ですか?

    返信
    1. レイ 投稿作成者

      ビッグダディ様、コメントを頂きましてありがとうございます。

      さがりに、ふにゃふにゃのと固いのがあるのは何故かというご質問ですね。
      これは関取か幕下以下か、地位によって着用できる下がりが違います。

      関取以上が着用できる下がりは、布海苔(ふのり)でつくった糊で固められています。
      締込と同じ絹織物の縦糸を材料にしており、これを束ねて糊で固められているためピンとしているのです。

      対して幕下以下のふにゃふにゃの下がりは木綿製であり、丸いひもになっており布海苔で固められていません。

      こちらの記事で紹介するべき内容でした。
      ご質問頂きましてありがとうございます。近々追加しておきたいと思います。

      返信

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