大相撲用語解説。今回は「序ノ口」について解説します。
新弟子たちが前相撲を経て、初めて番付表に四股名が刻まれる相撲人生の出発点が「序ノ口」です。番付のどこに位置し、なぜ「序の口」と呼ばれるのでしょうか。日常会話でも使われる言葉の語源から、番付表の「虫眼鏡」と呼ばれる極細文字、定員がない理由、給料・手当、服装規定、取組ルールまで分かりやすく解説します。
この記事の目次
序ノ口とは
大相撲の番付において、幕内、十両、幕下、三段目、序二段に次ぐ最も下位に位置する階級を序ノ口(じょのくち)と呼びます。
地位は「序ノ口筆頭(一枚目)」「序ノ口十枚目」のように枚数で表され、数字が大きくなるほど下位になります。番付表では一番下の段(最下段)にあたり、1文字「同」と振られた下に、極めて細い文字で力士の四股名が並びます。
新弟子検査に合格した力士はまず「前相撲」を取り、そこで出世を認められた力士(新序力士)が、翌場所に初めて正式な番付表に四股名が載る「出世の第一歩」となる地位です。
「虫眼鏡」とも呼ばれる番付表の極細文字
大相撲の番付表は、最高位である横綱・大関が最も大きな相撲字で太く書かれ、下位に行くほど文字が小さく細くなっていきます。
最下位である序ノ口の欄に並ぶ四股名はあまりにも細かく、日本相撲協会の公式解説(大相撲クイズ No.850)でも解説されているように、相撲界では古くから「虫眼鏡を使わないと見えないほど小さい」ということから、序ノ口の力士や番付位置のことを俗称で「虫眼鏡」と呼ぶことがあります。
また、上位力士から下っ端の仕事を言いつけられたり、関取の明け荷を担いだりすることから、序二段や序ノ口の力士は俗に「褌担ぎ(ふんどしかつぎ)」とも呼ばれてきました(大相撲クイズ No.543)。
なぜ「序ノ口」と呼ぶのか?「上ノ口」からの由来
「序ノ口」という言葉は、現在では「物事の始まり」「ほんの駆け出し」を意味する慣用句として日常会話でも広く使われていますが、その語源こそが大相撲のこの階級です。
江戸時代の勧進相撲では、出世の階段を登り始める入り口という意味を込めて、もともと「上ノ口(じょうのくち)」と表記されていました(大相撲クイズ No.989)。
しかし、「上ノ口」の「上」の文字が番付の上位力士と紛らわしいことや、書の巻頭・序文を意味する「序」の文字を当てて「相撲人生の序章の入り口」という意味合いから、次第に「序ノ口」と表記されるようになり定着していきました。また、番付表の上から数えると5段目にあたるため、古くは「五段目」と呼ばれることもありました。
定員がない理由と人数の歴史的変遷
序ノ口は、1つ上の序二段と同様に定員が定められていません。
幕内(42名)、十両(28名)、幕下(120名)、三段目(令和7年以降は160名)という上位陣には厳格な定員枠が設定されていますが、相撲界全体の力士数は毎場所変動します。そのため、あらかじめ定員枠が固定されている三段目以上の枠からあふれた力士たちを、序二段と序ノ口で分け合って編成しているためです。
特に春場所(3月場所)は中学・高校・大学の卒業生など多くの新弟子が入門するため、翌5月場所(夏場所)には前相撲から大量の新序力士が序ノ口に上がってきます。そのため、日本相撲協会の番付編成では以下のような目安で人数が調整されています。
- 5月場所(夏場所):前相撲からの昇進者が多いため、序二段と序ノ口の比率を「おおむね3対1」とする。
- その他の場所:「おおむね4対1」を目安に編成する。
時代による人数の変動も激しく、過去には以下のような記録が残されています。
- 在位者ゼロ(序ノ口不在):終戦直後の混乱期であった昭和20年(1945年)11月場所および昭和21年(1946年)11月場所は、新弟子の激減により番付上の「序ノ口力士が0人」という異常事態が発生しました(昭和22年(1947年)6月場所に、後の第45代横綱・初代若乃花ら18人が序ノ口に載ったことで解消)。
- 史上最多人数:若貴ブームに沸いた平成4年(1992年)5月場所の153人(東77枚・西76枚)。
- 戦後の最少人数:昭和27年(1952年)9月場所の8人(東西4枚)。
- 平成以降の最少人数:平成25年(2013年)3月場所の27人(東14枚・西13枚)。
素足に下駄!序ノ口の厳しい身なり規定
序ノ口は、力士養成員の最も下位であり、相撲界で最も厳しい下積みの立場です。生活や身の回りには厳格な制約が課されています。
履物は素足に「下駄」のみ
外出時の履物は、序二段と同様に素足に「下駄(桐の下駄)」しか認められていません。
三段目に昇進して初めて「エナメル雪駄」が許され、幕下に昇進して初めて「黒足袋」が許されます。真冬の冷え込む日であっても足袋を履くことはできず、素足に下駄を履いて歩かなければなりません。新弟子たちが「早く三段目に上がって雪駄を履きたい」と願うのは、この過酷な足元の冷たさを身をもって知るためです。
着物・羽織・髷の規定
衣服や身の回りの品々も、最も質素なものに限定されています。
- 着物:浴衣、またはウールの着物姿に限られます。三段目以上で許される羽織を着ることはできません。
- 帯:木綿の帯を締めます。
- 傘:雨天時は洋傘(通常の傘やビニール傘)を使用します(番傘や蛇の目傘は幕下以上)。
- 髷(まげ):髪型は「丁髷(ちょんまげ)」です。入門したばかりでまだ髪が伸びていない新弟子は、髷を結えないまま「坊主頭」や「ざんばら髪」で土俵に上がることもあります。
三段目への昇進で解禁される「雪駄」や「羽織」の規定については、以下の解説記事をご覧ください。
給料・手当と部屋での過酷な下積み
金銭面や部屋での待遇においても、一人前の関取とは雲泥の差があります。
- 月給はなく「場所手当」:毎月の給料(月給)はありません。本場所ごとに支給される「力士養成員場所手当」は、全階級で最も低い1場所7万7,000円(年間約46万円)です。これに加えて成績に応じた「幕下以下奨励金」が支給されます。
- 雑用とちゃんこ番:相撲部屋では大部屋で生活し、朝早くから稽古場の掃除や土俵整備、買い出し、ちゃんこ番(食事作り)、洗濯、関取や兄弟子の身の回りの世話(付け人)など、一日中多忙を極めます。食事や風呂の順番も関取や兄弟子の後になるため、まさに相撲部屋のピラミッドの土台を支える存在です。
- 土俵下の控え:土俵下で出番を待つ際、座布団は敷かれず、畳の上に直に座って出番を待ちます。
- まわしと下がり:本場所用の締め込みはなく、稽古で使う黒木綿の廻しで相撲を取ります。下がりも糊付けされていない柔らかい紐状のものを使用します。
序ノ口の本場所ルールと取組
序ノ口の取組は、本場所の午前中、会場にまだ観客がまばらな時間帯からスタートします。
- 1場所7番の取組:15日間の本場所中に7番の相撲を取ります。4勝3敗以上で「勝ち越し」、3勝4敗以下で「負け越し」となります。
- 制限時間は2分:仕切りの制限時間は幕下以下共通の2分以内です。
- 塩と力水はなし:土俵上での塩まきや力水は行われません。
- 優勝賞金:序ノ口で各段優勝を果たした力士には、優勝賞金として10万円が授与されます。
行司が「東西」と発して取組が始まる!
本場所の1日は、この序ノ口の取組から始まります。
本場所初日、午前8時30分頃に土俵へ上がった序ノ口格行司が、軍配を掲げて「と〜ざい〜(東西)」と大きな声で発します(大相撲クイズ No.938)。これは呼出が十両や幕内の結びで行う「東西東西」とは異なり、「これより本日の取組を開始する」という厳粛な開始宣言です。静まり返った館内に響き渡る行司の声とともに、大相撲の熱い1日が幕を開けます。
なお、序ノ口の取組を裁くのは最も若い「序ノ口格行司」であり、力士を土俵へ呼び上げるのも入門したての「序ノ口呼出」です。土俵上の力士だけでなく、裏方にとっても序ノ口は大切な修業と成長の場となっています。
大横綱・白鵬も序ノ口デビューで負け越した?
序ノ口は、将来の横綱・大関を含むすべての力士が最初に通る関門です(幕下付出・三段目付出を除く)。
後に大相撲史上最多となる45回の幕内優勝を達成した第69代横綱・白鵬も、平成13年(2001年)5月場所に「西序ノ口16枚目」で初めて番付表に名前が載りました。入門当初は細身で体重が軽かった白鵬は、このデビュー場所で「3勝4敗」と負け越しを喫しています(大相撲クイズ No.1232)。
白鵬が力士生活の中で、休場せずに皆勤して負け越したのは、この「初めて番付に載った序ノ口」と、翌年の「三段目」のわずか2場所しかありません。どんな大横綱であっても、最初はこの序ノ口の土俵で泥にまみれ、悔しさをバネにして頂点へと駆け上がっていったのです。
「序ノ口」のまとめ
序ノ口は、大相撲の番付において一番下に位置し、すべての力士が前相撲を突破して最初に四股名を刻む「原点」の階級です。
「虫眼鏡」と称される極細の文字、素足に下駄という厳しい服装、過酷な部屋の雑用など、厳しい下積み生活の始まりではありますが、同時に「出世の上り口」として関取への夢がスタートする場所でもあります。早朝の静寂のなかで響く行司の「東西」の声と、泥臭くぶつかり合う若手たちの取組には、相撲界の未来を担う息吹が宿っています。
他にも気になる相撲言葉が調べたいときは、大相撲用語事典へぜひどうぞ。
また、当サイトでは出身地別、力士別、初土俵別など様々な方法で力士データをまとめています。
決まり手の解説記事へのリンクは、以下の一覧ページをご覧ください。
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