大相撲用語解説。今回は番付表に書かれている「同」について解説します。
大相撲の番付表をじっくり眺めると、十両力士の頭に「前頭」と書かれていたり、幕下から序ノ口にかけて「同」という文字が並んでいたりすることに気づきます。一体何が「同じ」なのでしょうか。その意外な正体と歴史的背景を分かりやすく解説します。
この記事の目次
番付表の「同」とは?何が「同じ」なのか
大相撲の本場所ごとに発行される番付表には、力士の四股名の上に地位(横綱、大関、関脇、小結など)が書かれています。
しかし、幕下や三段目、序二段、序ノ口の欄をよく見ると、力士名の上に「同」という文字がいくつも並んでいるのが分かります。この「同」は、一体何が同じであることを表しているのでしょうか。
正解は「同じく前頭」という意味!
結論から言うと、番付表の「同」は「同じく前頭(まえがしら)」という意味です。
日本相撲協会の公式解説(大相撲クイズ No.1321およびNo.409)でも、「番付表に記載の文字は何が同じなのか? → 正解:同じく前頭」と公式に解説されています。
つまり、番付表の上では、幕内の平幕力士だけでなく、十両、幕下、三段目、序二段、そして最下位の序ノ口に至るまで、役力士(横綱・大関・関脇・小結)以外の力士は全員が「前頭」として扱われているのです。
なぜ十両から序ノ口まで全員が「前頭」なのか?
現代の大相撲では、「前頭」といえば「幕内の三役(小結)より下の平幕力士」だけを指すのが当たり前です。十両や幕下の力士を前頭と呼ぶ人はいません。それなのになぜ、番付表の上では全員が「前頭(同)」と書かれているのでしょうか。
その理由は、「前頭」という言葉の本来の成り立ちと歴史にあります。
語源は「前相撲の頭(かしら)」
「前頭」という言葉は、元来「前相撲(まえずもう)の頭」という意味でした。
江戸時代の勧進相撲において、まだ番付に載っていない新弟子たちが取る相撲のことを「前相撲」と呼びました。そして、その厳しい前相撲を勝ち抜いて出世し、晴れて正式な番付表に名前が載った力士たちのことを、「前相撲の頭(トップ)」という意味を込めて「前頭」と呼んだのです。
「役力士」と「前相撲」に挟まれた全力士の総称だった
江戸時代の大相撲における力士の身分は、大きく以下の3つに分かれていました。
- 役力士(役相撲):大関・関脇・小結など、土俵の興行上で特別な「役」を与えられた上位力士。
- 前相撲:まだ番付表に名前が載らない修業中の入門者。
- 前頭:役力士と前相撲という「両極端の力士」の間に位置する、番付表に載った全力士。
つまり、番付に名前が載っている力士のうち、特別な「役」についていない力士は、上から下まで全員が「前頭」という一つの大きなカテゴリーだったのです。
番付表における「前頭」と「同」の書き分け
大相撲の番付表を実際に見てみると、段ごとに表記の仕方が工夫されています。
十両力士の名前の上にも「前頭」と書かれている
番付表の最上段(幕内)では、三役(横綱・大関・関脇・小結)の隣から、平幕力士の名前の上に一人ずつ「前頭」と相撲字で書かれています。
そして上から2段目の十両(十枚目)を見てみると、地位の欄には「十両」ではなく、幕内と同じく一人ひとりの四股名の上に「前頭」と書かれています。十両は明治21年(1888年)に独立した地位として確立されましたが、番付表の伝統的な様式としては今なお幕内平幕と同じ「前頭」の文字が使われています。
幕下以下はスペースの都合で「同」と省略
十両の下にある幕下、三段目、序二段、序ノ口の欄に行くと、力士の数が一気に増え、文字も非常に小さく細くなります。
一人ひとりの上に「前頭」と書いていては紙面に入り切らず、書く行司の負担も膨大になってしまうため、何人かの力士をまたぐように大きな文字で「同(同じく前頭)」と書いて省略しているのです。
なお、幕下の詳しい地位や待遇については、以下の解説記事で詳しく紹介しています。
相撲字独特の崩し字(略字)
番付表の幕下以下に書かれている「同」の文字を見ると、私たちが普段目にする「同」の形とは少し異なり、枠の中に線が引かれた記号やカタカナの「コ」または「司」を略したようにも見えます。
これは番付表を書く行司独特の「相撲字」による崩し字(略字)です。限られた細いスペースのなかに、力士の隙間を埋めて「大入り」を願う相撲字の伝統的な技法によって、流れるような美しい略字で「同」と書かれています。
番付表の欄外にある「此外中前相撲…」との深いつながり
番付表に全員が「前頭(同)」と書かれている歴史的理由は、番付表の左下(西方の最下段欄外)に書かれている決まり文句にもはっきりと表れています。
そこには、江戸時代から変わらない以下の言葉が記されています。
「此外中前相撲東西二御座候(このほかなかまえずもうとうざいにござそうろう)」
この文言は、「この番付表に四股名が載っている力士のほかにも、番付に載らない中相撲(本中・相中)や前相撲の力士たちが東西に控えていますよ」という意味です。
つまり、番付表は「番付に載っている前頭力士たち」と「欄外に控える前相撲力士たち」という境界線を明確に示しており、番付表に名前があること自体が「前相撲の頭(前頭)」である証拠だったのです。
「同(番付)」のまとめ
番付表に書かれている「同」という文字は、「前頭に同じ」という意味を持つ相撲界の歴史的な名残です。
かつて「前相撲の頭」として、役力士を除く番付上の全力士を指していた「前頭」。現在では幕内の平幕力士だけを前頭と呼ぶようになりましたが、江戸時代から連綿と受け継がれてきた番付表の上では、十両の「前頭」や幕下以下の「同」という文字の中に、大相撲の原点ともいえる伝統の息吹が今もそのまま息づいています。
他にも気になる相撲言葉が調べたいときは、大相撲用語事典へぜひどうぞ。
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