大相撲用語解説。今回は「注文相撲(ちゅうもんずもう)」と、相撲界で使われる「注文」にまつわる言葉について解説します。
立ち合いの瞬間、正面からぶつからずにパッと体をかわして相手を土俵に這わせる「注文相撲」。館内からはどよめきやため息が漏れることも多いこの取り口には、一体どのような意味や戦術的な背景があるのでしょうか。関連する相撲用語や、注文相撲が賛否両論を呼ぶ理由まで分かりやすく紐解きます。
この記事の目次
大相撲の「注文相撲」とは
大相撲における「注文相撲(ちゅうもんずもう)」とは、立ち合いの際に正面から当たったり四つに渡り合ったりせず、左右に跳んで叩いたり、足を取ったりするなど、意図的に奇襲作戦を用いる相撲のことです。
相撲界では古くから「勘定相撲(かんじょうずもう)」とも呼ばれています。相手が真正面から突っ込んでくる心理や勢いをあらかじめ計算(勘定)に入れ、自分の思い通りの展開にハメ込むことから名付けられました。
そもそも相撲界における「注文」とは?
一般社会で「注文」といえば飲食店での注文や商品の発注を思い浮かべますが、相撲界において「注文」とは相撲の作戦や戦術そのものを指します。
立ち合いの際の奇襲作戦、相手の意表を突くかく乱戦法、さらには取組の攻防の中での変化など、あらかじめ自分の中で筋書きを描いて仕掛ける作戦全般を総称して「注文」と呼びます。
「注文」にまつわる相撲界の言い回し
相撲界では、この「注文」という言葉から派生した独特の言い回しが日常的に使われています。
注文をつける(勘定をつける)
立ち合いで自分に有利な体勢を作ることを狙って、意図的に奇襲作戦に出ることを「注文をつける」と言います。勘定相撲と同様に「勘定をつける」とも表現されます。
相手の突進力を利用して横にかわしたり、立ち合いざまに足を取りに行ったりと、策を弄して主導権を握ろうとする行為を指します。
注文にはまる
相手が仕掛けてきた奇襲作戦にまんまと引っかかり、あっけなく負けてしまったり、著しく不利な体勢に追い込まれたりすることを「注文にはまる」と言います。
真っ向勝負を挑もうと勢いよく踏み込んだ力士ほど、相手がその場から消えるように変化した際、自らの勢いを止められずに土俵の外へ飛び出してしまい、注文にはまる形になりやすいのが特徴です。
注文上手(ちゅうもんじょうず)
立ち合いにしばしば奇襲作戦を巧みに用い、自分に有利な展開へ持ち込むのが得意な力士、あるいはその巧妙な取り口のことを「注文上手」と呼びます。
決して褒め言葉としてばかり使われるわけではありませんが、体格で大きく劣る小兵力士が大型力士を翻弄する高度な技術や勝負勘として評価される側面もあります。
注文相撲の代表的な取り口と決まり手
注文相撲で用いられる戦法には、相手の立ち合いの勢いを逆手に取る様々な技があります。
- 立ち合いの変化(へんか):立ち合いの瞬間に左右どちらかへ体をかわし、相手の突進を空転させるもっとも代表的な注文相撲です。「はたき込み」「突き落とし」「引き落とし」などの決まり手につながります。
- 足取り(あしとり):立ち合いと同時に相手の太ももや膝の裏に手を伸ばし、足をすくい上げて倒す奇襲技です。
- けたぐり・内掛け:踏み込んでくる相手の出足を払い、バランスを崩して一瞬で勝負を決める足技です。
- 八艘飛び(はっそうとび):相手の頭上を飛び越えるように大きく横へ跳躍し、背後や側面から相手を崩すアクロバティックな奇襲です。
なぜ注文相撲は批判されるのか?大相撲の美学と勝負論
注文相撲が決まると、館内の観客から大きなどよめきとともに、時には深いため息や厳しい野次が飛ぶことがあります。ルール違反ではないにもかかわらず、なぜ注文相撲はこれほど批判を浴びやすいのでしょうか。
大相撲が重んじる「真っ向勝負」の美学
大相撲には古来、「立ち合いは正面から正々堂々とぶつかり合い、力と技でねじ伏せるのが本道である」という根強い美学と価値観が存在します。
特に最高位である横綱や大関といった看板力士には、相手の攻めを堂々と受け止めた上で勝つ「横綱相撲」が求められます。そのため、上位陣が立ち合いに変化して注文相撲で白星を拾った場合、たとえ勝ったとしても相撲ファンや好角家、相撲協会の横綱審議委員会などから「見苦しい」「品格に欠ける」と強い批判を受けることになります。
小兵力士の「生き残り戦術」という現実
一方で、体重差が無差別である大相撲において、体重100kg前後の小兵力士が200kg近い巨漢力士と真正面からぶつかり合えば、圧倒的なパワーに押し潰されて大怪我を負う危険性があります。
そのため、敏捷性を活かした立ち合いの変化や足取りといった注文相撲は、小兵力士が土俵で生き残るための正当かつ高度な戦術でもあります。「力士が命懸けで土俵に上がっている以上、ルール内で勝つための作戦を練るのは当然」「喰らう方が踏み込みすぎであり、相手の動きを警戒していない方が悪い」という勝負師としての見解も根強く存在します。
勝ち越しを懸けた「給金相撲」でのドラマ
普段は真っ向勝負を信条としている力士であっても、関取の座や勝ち越し(給金直し)がかかった極限の土俵では、背に腹は代えられず注文相撲を選択するケースがあります。
生涯の給金や地位を左右する大一番だからこそ、なりふり構わず白星をもぎ取りに行く気迫の表れでもあり、注文相撲の背景には土俵の厳しさと力士それぞれの切実なドラマが隠されています。
給金相撲の仕組みや勝ち越しが力士に与える影響については、以下の解説記事をご覧ください。
「注文相撲」のまとめ
大相撲の「注文相撲」は、立ち合いで正面からぶつからずに左右へ変化したり足を取ったりする奇襲戦法であり、相撲界では「勘定相撲」とも呼ばれる作戦(注文)です。
「注文をつける」「注文にはまる」「注文上手」といった言葉が受け継がれているように、真正面からの力勝負を美徳とする大相撲の伝統と、手段を選ばず勝利を目指す勝負の世界の現実が交錯する場所に注文相撲は存在します。白星への執念や駆け引きの裏側を知ることで、立ち合いの一瞬に凝縮された力士同士の心理戦をより深く味わうことができるはずです。
他にも気になる相撲言葉が調べたいときは、大相撲用語事典へぜひどうぞ。
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