取組の見所である「決まり手」。大相撲には現在これだけの技が存在します。
大相撲の取組において、相手にがっちりと「上手(うわて)」を取られてしまった! あるいは深く「下手(したて)」を差し込まれてしまった! という場面は、一気に寄り切られたり投げられたりする危険性が高い大ピンチです。
しかし、一流の力士たちはそこからあっけなく負けることはありません。不利な体勢に追い込まれた時、彼らは土俵上で見えない防御の技術を駆使してピンチを脱し、逆襲の糸口を探っています。
この記事では、相手の攻めを無効化する極めて重要なディフェンステクニック、「差し手を返す」と「まわしを切る」について、そのメカニズムを詳しく解説していきます。
この記事の目次
相手の攻めを封じる「差し手を返す」とは?
四つ身に組んで自分が「下手(差し手)」を取った、あるいは相手の脇の下に腕を入れた際、そのまま手首を真っ直ぐにしておくのは得策ではありません。親指を内側にぐいと入れ、小指側を上に向けてヒジを外に張る動作を「差し手を返す(腕を返す)」と言います。
この時、自分の腕は相手の体にぴったりと密着し、親指と人差し指で作る輪が相手の肩甲骨の上に乗るような形になるのが理想です。
差し手を返すメリットと力学的効果
差し手を返すことには、攻防両面において非常に大きな効果があります。
- 相手の重心を浮かす:ヒジを外に張って腕を返すことで、相手の腕が下から不自然に持ち上げられ、上体が起きて重心が浮き上がります。
- 上手を取らせない・遠ざける:差し手を返して相手の胸に顔を押し付けるように密着すれば、相手は自分のまわしを引きたくても距離が遠くなり、十分に上手を取ることができなくなります。
- 巻き替えを防ぐ:自分の腕が相手の体に密着するため隙間がなくなり、別記事で解説している『巻き替え』を打たれるリスクを減らすことができます。
まさに一石二鳥、一石三鳥の必須テクニックですが、返し方が不十分だと、逆に小手投げや「とったり」といった技を食らう隙を与えてしまうため、基本である「親指側へ(内側へ)返す」ことを徹底しなければなりません。
絶対絶命のピンチを脱する「まわしを切る」とは?
「まわしを切る」とは、文字通り相手が掴んでいるまわしを、強引に、あるいは技術を使って外させる動作のことです。相手に有利なまわしを深く取られてしまった場合、そのままでは防戦一方になるため、何としてもまわしを切る必要があります。
まわしの切り方のバリエーション
一口に「まわしを切る」と言っても、取られた位置(上手か下手か)や状況によって、いくつかの対処法があります。
1. 腕力と腰の振りで強引に切る
もっとも手軽でよく見られるのが、相手の手首を両手(または片手)で力いっぱい握って強引に押さえつけたり、自分の腰を前後左右に強く振って、その反動で相手の手を振り解く力技です。
まわしを取る際「親指を通せ(中に入れろ)」と指導されるのは、親指以外の4本の指だけで引っ掛けている状態だと、このように腰を振られただけですぐに切られてしまうからです。逆に、五回も六回も固く結ばれたまわし全部をガッチリと掴まれていると、なかなか切ることはできません。
2. 上手(うわて)を切るテクニック
相手に上手を取られた時は、相手の脇の辺りに自分の手(ハズ)を当て、下から上へ強く押し上げるようにします。そして、腰を前方に突き出して重心の位置を移動させ、素早く一瞬の隙をついて上手を切ります。切った後も、すぐに取り直されないように警戒が必要です。
3. 下手(したて)を切るテクニック
下手まわしを切るには、上手とは逆のアプローチになります。相手の下手(差し手)を自分の上手で上からギュッと絞るようにして強く挟みつけ、抱え込むようにします。そして、上手側の自分の腰を力強く後ろへひねることで、相手の手を強引に引き剥がすのです。
「切られない用心」も実力のうち
まわしを切る技術は重要ですが、それ以前に「そもそも簡単に切られるような取り方をしない」「相手のまわしをガッチリと掴む」こともまた重要です。相撲のセオリーとして、まわしを取ったら親指をしっかりと内側に通し、相手の腰の動きに追従して握りを深めていくことが求められます。
ただし、相手のまわしが極端に緩い「ゆるふん」の状態だと、いくら強く握っても力が入りにくく、結果的に切られやすくなるケースも存在します。まわしが「命綱」と呼ばれるゆえんがここにもあります。
相撲中継を見ていると、土俵中央で力士の動きがピタッと止まることがあります。一見何もしていないように見えますが、実はまわしの中で「差し手を返して圧力をかける」「まわしを切ろうと指や腰を動かす」「それをさせまいと握りを深くする」といった、凄まじい力の攻防と駆け引きが行われているのです。次に観戦する際は、ぜひこの見えないディフェンスの技術にも注目してみてください!
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