呼出の「呼び上げ」とは?日によって東西が違う?一声と二声の差は?

大相撲の土俵に響き渡る、どこか哀愁を帯びた、それでいてお腹の底にスッと通る美しい声。一度でも本場所を観戦したことがある方なら、あの「ひがぁ〜しぃ〜、〇〇うみぃ〜〜」という独特の節回しに心を奪われたことがあるのではないでしょうか。

あの美しい声で力士たちを土俵へと招き入れる所作を、大相撲では「呼び上げ(よびあげ)」と呼びます。この呼び上げを行っているのは、土俵の築造や太鼓たたきなど、大相撲を裏から支える「裏方」のプロフェッショナル「呼出(よびだし)」さんです。

今回は、大相撲観戦が面白くなる「呼び上げ」の奥深いルールや、美声の裏に隠された呼出たちの知られざる心構え、そして彼らの強い「絆」を象徴する秘密のアイテムについて、事実に基づいた情報をもとにたっぷりご紹介します!

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奇数日と偶数日で変わる?「東西」呼び上げ順のルール

大相撲の呼び上げをじっくり聞いていると、ある日は「東方」の力士から先に呼ばれ、またある日は「西方」の力士から先に呼ばれていることに気づきます。実はこれ、気まぐれで行われているわけではなく、大相撲ならではの仕組みが存在するのです。

  • 奇数日(初日、3日目、5日目……):「東方」の力士から先に呼び上げる
  • 偶数日(2日目、4日目、6日目……):「西方」の力士から先に呼び上げる

この規則は、会場で配られる「取組表」や、相撲協会のサイトで見ることが出来るPDFの取組表でも確認できます。各取組をみると、奇数日は東方力士が上段に、偶数日は西方力士が上段に記載されているため、観戦の際は今がどちらの日なのかを意識するとより楽しめます。

【意外と知らない?】その日の取組の「東方西方」はどう決まる?

ここで、一歩進んだ大相撲トリビアをご紹介しましょう。普段何気なく見ている取組ですが、「番付が、同じ東同士、あるいは西同士の力士が対戦するとき、その日はどちらが東方・西方になるのか?」と疑問に思ったことはありませんか?

実は、これも非常にすっきりとした決まりごとによって決められているのです。

  • 番付が「東」同士の取組の場合:番付の上位者が【東方】に、下位者が【西方】に回る
  • 番付が「西」同士の取組の場合:番付の上位者が【西方】に、下位者が【東方】に回る

例えば、「東前頭筆頭」と「東前頭5枚目」の力士が対戦する場合、上位である筆頭の力士がそのまま「東方」となり、5枚目の力士が「西方」に入ります。
逆に西同士の対戦では、上位の力士がそのまま「西方」となり、下位の力士が「東方」へと移動する仕組みです。この法則を知っておくと、取組表を見るのが更に楽しくなりますよ!

所作を美しく見せるための「房」の移動

呼出さんが呼び上げのために土俵へ上がる際、実は「上がる位置」も日によって変わっているのをご存じでしょうか。

  • 奇数日:東方からの呼び上げのため、西側の「白房(しらぶさ)」下から土俵に上がる
  • 偶数日:西方からの呼び上げのため、東側の「赤房(あかぶさ)」下から土俵に上がる

これは呼出の導線と呼び上げる方向を考えると分かります。もしも赤房(東側)の下から土俵中央に上がり、東方の力士を先に呼び上げようとすると、中央で不自然にUターンしなければならず、所作が美しくありません。白房(西側)から土俵に上がり、その向きのまま東方から呼び上げることで自然な呼び上げになるわけです。「無駄な動きを省き、いかに凛とした佇まいで呼び上げるか」という、呼出たちの知恵がこの移動ルート一つにも隠されているのです。

「一声(ひとこえ)」と「二声(ふたこえ)」

呼び上げには、取組の格(力士の地位)によって、呼び上げる回数が変わるルールがあります。それが「一声(ひとこえ)」「二声(ふたこえ)」の違いです。

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通常の取組はシンプルな「一声」

幕下以下のすべての取組、および十両や幕内の通常の取組では、力士の四股名は1回ずつしか呼び上げられません。これを「一声」と呼びます。

「ひがぁ〜しぃ〜、琴〜△〜△〜、にぃ〜しぃ〜、〇〜〇〜やま〜〜」

東方・西方それぞれの四股名を、シンプルに、かつ伸びやかに呼び上げます。

結びが近づくと響き渡る「二声」

一方で、十両最後の一番、および片やが三役(小結・関脇・大関・横綱)以上の取組になると、それぞれの四股名を2回ずつ繰り返し呼び上げる「二声」となります。

「ひがぁ〜しぃ〜、琴〜△〜△〜、琴〜△〜△〜。にぃ〜しぃ〜、〇〜〇〜やま〜、〇〜〇〜やま〜〜」

結びの一番が近づくにつれて土俵上に漂う独特の緊迫感は、この「二声」による厳かな響きによってさらに引き立てられているのです。

ちなみに、仕切りの制限時間は、この呼び上げが終わった瞬間から審判委員の時計係が計測を開始するため、土俵の進行管理という点でも極めて重要な役割を持っています。

【優勝決定戦】が「一声」なのはなぜ?

ここでまた一つ、面白い仕組みがあります。普段は「二声」で呼ばれる横綱や大関など、最高位の力士たちが進出した場合であっても、優勝決定戦の時だけは地位に関わらず必ず「一声」で呼び上げられます。

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これには理由があります。優勝決定戦は、取組編成会議で決めた本場所の取組である「本割(ほんわり)」ではなく、本場所で各段の最高成績に同点者が二人以上いたときに行われる、千秋楽の「特別な一番」だからです。

この優勝決定戦では「一声」というのは、第28代木村庄之助が「本割と優勝決定戦は別なのだから、呼び上げは1回がよいのでは?」と提案し、それ以来「一声」となったという経緯が、元呼出の秀男さんの著書に記されていました。

決定戦ともなれば三役以上の力士が登場することが多いですが、普段は二声で呼び上げられている力士も、この優勝決定戦では「一声」が用いられます。決定戦ならではの一発勝負のひりつくような空気感は、この潔い「一声」によってさらに強調されているのかもしれません。

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不戦勝・不戦敗の日はどうなる?

相撲の世界では、残念ながら力士の怪我や病気による休場が発生することがあります。その際、「不戦勝・不戦敗」となった取組の呼び上げは行われません。

そのため、その日に呼び上げる予定だった取組がすべて休場などによって不戦勝となった場合、その担当呼出さんは呼び上げの出番を一度も迎えることなく一日を終えることになります。

力士と呼出の「構成比」から生まれる階級のズレ

呼出には、力士の番付けと同じような階級が存在しており、原則的にはこの階級に応じて、各段の呼び上げを担当することになります。しかし、実は呼出の「階級」と、実際に呼び上げる「取組の格」には、それぞれの構成比による理由から現実的なズレが生じます。

入門から修業、そして階級ごとの厳しい「定員」

現在、呼出の入門資格は「15歳から19歳未満の男子」とされており、全体の定員は45名と決められています。近年は呼出の人気が非常に高く、常に45名の満員状態が続いています。

呼出の階級は、最高位の「立呼出(たてよびだし)」を筆頭に、定員制限のある9階級で構成されています。

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  • 立呼出(たてよびだし):1名(結びの一番のみを担当)
  • 副立呼出(ふくたてよびだし):1名(2番を担当)
  • 三役呼出:3名(2番ずつ担当)
  • 幕内呼出:7名以内(2番を担当)
  • 十枚目(十両)呼出:8名以内(2番を担当)
  • 幕下呼出以下(三段目、序二段、序の口)残り25名:残りのすべての取組を分担

構成比の違いがもたらす「格のズレ」

このように呼出の階級があり、十枚目以上の呼出は、立行司以外は2番ずつ呼び上げを担当することになっています。「十両(十枚目)呼出だから、十両の取組から呼び上げるんじゃないの?」と思われそうですが、現実的には幕下中位の取組から十枚目呼出が登場しています。

では、なぜ十枚目呼出が幕下中位の取組を呼び上げるような「格のズレ」が起こるのでしょうか。
その最大の理由は、「力士の階級別構成比」と「呼出の階級別構成比」が大きく異なっているためです。

力士の構成比を見ると、最も人数が多いのは「序二段」次に「三段目」「幕下」というように下位階級です。しかし呼出の構成比は、十両以上の「資格者」と呼ばれる呼出だけで計25名以上(立呼出〜十枚目呼出の定員より実際は多い)と、定員45名に対して半数以上存在しています。
これに対して、十両以上の実際の取組数は、通常であれば十両が14番、幕内が21番の計35番しかありません(休場などで変動はあり)。十両以上の呼出が原則通り1人2番(立呼出は1番)を呼び上げるとなると、どうしても十両以上の呼出の人数が余ってしまいます。そのため、十両呼出の下位の者が、幕下中位あたりの取組から土俵に登場して呼び上げる必要があるのです。

さらに下位の階級に目を向けると、最も力士数の多い「序二段」の取組に対し、序二段呼出は数名(2~3名ぐらい)しかおらず、全く釣り合っていません。この構造的な人数のギャップがあるため、幕下以下の若手呼出たちは1人で15番以上の取組で呼び上げを行い、また必然的に階級と実際の呼び上げ位置がスライドしていくのです。

四股名の呼びやすさ、個性豊かな節回しの魅力

呼び上げの間の取り方や節回しは、呼出さんそれぞれの個性や修業の賜物であり、聞き比べるのがファンの大きな楽しみです。しかし、実は四股名によって「呼びやすい名前」と「呼びにくい名前」があるのだそう。

一般的に、「〜山(やま)」や「〜川(かわ)」で終わる四股名や、五音の四股名などは、節回しが乗せやすく非常に呼びやすいとされています。
一方で、二音や三音など文字数が少ない力士や、途中に「ん」が入ったり、言葉が詰まる音を持つ四股名は、独特の節を伸ばすのが難しく、呼出さんたちも声を乗せるのに並々ならぬ技術と神経を使うそうです。一瞬の呼び上げにどれほどの技が込められているのか、四股名の響きにも注目してみると面白い発見があります。

呼び上げは、呼出それぞれが見よう見まねで修行を重ね、腕を上げていくことになります。東や西と言ってから四股名へといく間の取り方も重要であり、早すぎても、間が延びすぎても違って聞こえる、まさに「経験」によって熟成されていく職人芸です。

前相撲は土俵下からの呼び上げ

呼び上げの技術を磨く一番最初のステージが、本場所の序ノ口の取組前に行われている「前相撲(まえずもう)」です。
まだ番付に載っていない新弟子たち(力士の卵)と、修業を始めたばかりの見習い呼出さんたち。この前相撲では、呼び上げは土俵の上ではなく「土俵の下」から行うことになっています。
土俵に上がらず、土俵下から初々しい声を響かせる若者たちの姿は、まさに大相撲の原点。ここから未来の立呼出、未来の横綱への第一歩が始まっています。

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白扇はなぜ使う?

呼び上げるときには無地で白い扇子を広げて、力士のほうに向けて呼び上げています。この白扇を用いる理由には諸説あり、神聖な土俵を汚さないようにとか、力士を人差し指で指すのは失礼であるとか、力士に息をかけたりしない心遣いでは?とも言われているようです。実際のところは、呼出と力士の間は到底息のかかる距離ではないため、定かではありませんが。呼出の方々も相撲協会の方も明確な理由は知らないそうですが、白扇があることで呼出の立ち姿が凜としたものに見えることは間違いありません。

左手に握られたお守り「手持ち」に宿る、呼出たちの絆

呼び上げを行う呼出の姿をテレビなどでよく観察すると、右手で白扇を持つ一方、左手には何かをギュッと握り締めていることに気づくかもしれません。これは大相撲の隠れた名物アイテム「手持ち(てもち)」と呼ばれるものです。

手持ちとは、その日の取組表を細長く切り貼りして、クルクルと巻き紙のように仕立てたもの。うっかり力士の四股名を忘れてしまったときのための、いわば「お守り」のような役割を持っています。

1日のうちで何人もの呼出が交代しながら土俵に上がりますが、この「手持ち」は、自分の出番が終わると、担当した部分を切り取り、次の呼出へと手渡されていきます。駅伝のタスキのように、結びの一番までリレーされていくのです。実際に見ることはほとんどないようですが、この「お守り」があることで、堂々と呼び上げることができるのかもしれません。

「呼び上げ」のまとめ

大相撲の「呼び上げ」は、単に力士の名前を呼ぶアナウンスではありません。そこには、日によって変わる東西の美しい入場作法、取組の格を示す一声・二声の伝統、不戦勝時のシビアなルール、そして前相撲の土俵下からの修業など、何百年もの歴史の中で培われた洗練されたルールと美学が凝縮されています。

館内に響き渡る呼出さんたちの美声に耳を傾け、その指先に握られた「手持ち(てもち)」の温もりに想いを馳せるとき、あなたの相撲観戦はさらに深く、味わい深いものになるはずです。次の本場所では、ぜひ彼らの「声」と「所作」に注目してみてください!


他にも気になる相撲言葉が調べたいときは、大相撲用語事典へぜひどうぞ。

また、当サイトでは出身地別、力士別、初土俵別など様々な方法で力士データをまとめています。

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カテゴリー : 呼出
公開日:
投稿者:レイ

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