大相撲中継で、力士たちが土俵の真ん中でしゃがみ込み、拍手(かしわで)を打って両腕を大きく広げる独特の動作を見たことがあると思います。
今回は、あの美しい所作の基本姿勢である「蹲踞(そんきょ)」と、手を広げる動作「塵手水(ちりちょうず)」に込められた、深い意味と歴史について解説します。
この記事の目次
蹲踞(そんきょ)とは
大相撲における「蹲踞(そんきょ)」とは、土俵上で相手を敬い、自分を清めるための基本姿勢のことです。相撲は「礼に始まり、礼に終わる」と言われますが、この蹲踞の姿勢こそが相撲の「礼」を具体的に表しています。
蹲踞の正しい姿勢とタイミング
直立した姿勢からつま先立ちになり、深く腰を下ろして左右にヒザを開きます。手はヒザの上に軽く乗せて重心を固定します。
胸を張って下腹に力を入れ、アゴを引いて目は正面を見つめ、体を反らし気味にするのが理想的な形です。
一見簡単そうに見えますが、かかとを浮かせたつま先立ちでバランスを取るため、足腰がしっかりしていない新弟子にとっては非常に難しく、無我の境地でこの姿勢をとることで精神統一や呼吸を整える効果もあります。
土俵上において、力士はこの蹲踞の姿勢を、「二字口(にじぐち)」と呼ばれる仕切り線の手前で塵手水を切る際と、いざ仕切りに入る前の計2回とります。
塵手水(ちりちょうず)とは
蹲踞の姿勢のまま、両手をこすり合わせてから柏手を打ち、両腕を左右に大きく開く一連の動作を「塵手水(ちりちょうず)」と呼びます。単に「ちりを切る」と言うこともあります。また、事典などでは「塵浄水」と表記されることもあります。
なぜ「塵(ちり)」という言葉を使うのか?
現在は土俵に上がると「力水(ちからみず)」や「力紙(ちからがみ)」で身を清めますが、相撲が野外の草原で行われていた昔は、近くに身を清める水がないことも珍しくありませんでした。
そのため、あたりの雑草(ちり)をちぎって手を洗う代わり(手水)にしたというしきたりが受け継がれ、「塵手水(塵浄水)」と呼ばれるようになったと言われています。(※「ちりを切る」は「契り(ちぎり)」が変化した言葉だという説もあります)
塵手水(ちりを切る)の具体的な動作手順
塵手水の動作は、ただ手を広げているわけではありません。昭和30年(1955年)制定の相撲規則内「力士規定」の第7条において、「土俵に上がれば四股を踏み、水で口をすすぎ、紙で拭いて塩を土俵に撒いてチリを切る」と、登壇からの一連の所作として厳格に明記されている正式な作法です。一つ一つの動きには深い意味があります。
- 二字口の内側で蹲踞の姿勢をとり、一度両手を下げた後、胸の前で両手のひらを合わせ、手首から先を右に回しながら手のひらをこすり合わせます(もみ手)。
- 手前に引きつけたあと、大きく拍手(かしわで)を一回打ちます。
- 両腕をそろえたまま前方に突き出し、小指と小指をくっつけたまま両手のひらを上に向けます。
- 肩よりやや高めに水平を保ちながら、両腕を左右いっぱいに大きく開きます。
- 開き終わったら、少し間を置いてから手のひらを下へ返します。
神聖な土俵への礼「拍手」と、武器を持たないアピール
動作の中で打たれる「拍手(かしわで)」は、対戦相手に対する礼ではなく、本来は神聖な土俵に対する礼を意味しています。(※一般的に神社などでは「柏手」という字が使われますが、相撲界では古来からの用字である「拍手」と書いて「かしわで」と読みます)。
そのため、土俵に上がって二字口で塵手水を切る時(一回目)のほか、控え力士から「力水」をつけてもらった後に土俵内に戻った際(二回目)にも、再び蹲踞して拍手を打ちます。
そして、拍手を打った後に両手を左右に大きく開いて見せる動作は、「私は廻し(まわし)以外に何の武器も身につけていません」ということを、対戦相手や観客にアピールする意味を持っています。素手で正々堂々と戦うという、力士の強い意志表示なのです。
心身を清める「力水(ちからみず)」
上記の「拍手」の解説でも触れましたが、土俵上の力士が一連の作法の中で行う重要な儀式に「力水(ちからみず)」をつける動作があります。
力水は、柄杓(ひしゃく)でくんだ水を口に含んで軽くすすぎ、心身を清めるためのものです。相撲界では正式には「清き水(きよきみず)」と呼ばれますが、力士の所作を言い表す際は単に「水」をつけ、「水をつける」「水をもらう」といった表現が使われます。この力水と、口元や顔の汗を拭う「力紙(ちからがみ)」によるお清めの後、力士は再び土俵中央に戻って拍手を打ち、仕切りへと向かっていきます。
「塵手水・蹲踞・拍手・力水」のまとめ
蹲踞と塵手水は、相撲が神事や武道として発展してきた歴史を色濃く残す美しい作法です。ただの準備運動ではなく、神聖な土俵への礼(拍手)を示し、力水で心身を清め、武器を持たずに正々堂々と戦うことを誓う神聖な儀式でもあります。大相撲を観戦する際は、力士それぞれの個性が出るこれらの所作にもぜひ注目してみてください。
※塵手水を終え、いよいよ勝負に向けて互いに呼吸を合わせる「仕切り」や「立ち合い」については、以下の記事をご覧ください。
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